豊玉発句集
土方歳三は多摩での青年時代に多くの俳句を残しています。上洛の際、一冊の冊子に纏め、土方家に残していきました。
筆跡などから、歳三のものではなく佐藤彦五郎が書き直したとの説もありますが真相は定かではありません。
しかし、京都で新選組鬼副長と恐れられた土方歳三の純粋な面を垣間見ることのできる貴重な遺品です。

1 さしむかう 心は清き 水鏡
2 表裏 なきは君子の 扇かな
3 水音に 添いて聞きけり 川千鳥
4 手の平を 硯にやせん 春の山
5 白牡丹 月夜月夜に 染めてほし
6 願うこと あるやもしらず 蚊取虫
7 露の降る さきにのぼるや 稲の花
8 おもしろき 夜着の列や 今朝の雪
9 菜の花の 簾にのぼる 朝日かな
10 知れば迷い しらねば迷わぬ 恋の道
11 知れば迷い 知らねば迷う 法の道
12 人の世の ものとは見えず 梅の花
13 我が年も 花に咲かれて なお古し
14 年々に 折られて梅の 姿かな
15 朧とも いわで春立つ 年のうち
16 春の草 五色までは 覚えけり
17 朝茶飲みて そちこちすれば 霞なり
18 春の夜は 難しからぬ 噺かな
19 三日月の 水の底照る 春の雨
20 水の北 山の南や 春の月
21 横に行く 足跡はなし 朝の雪
22 山門を 見越して見ゆる 松の雪
23 大切な 雪は解けけり 松の庭
24 二三輪 初花だけは とりはやす
25 玉川に 鮎釣り来るや ひがんかな
26 春雨や 客を帰して 客に行き
27 来た人に 貰いあくびや 春の雨
28 咲きぶりに 寒気は見えず 梅の花
29 朝雪の 盛りを知らず 伝馬町
30 丘に居て 飲むのも今日の 花見かな
31 梅の花 一輪咲いても 梅は梅
32 降りながら 消ゆる雪あり 上巳こそ
33 年礼に 出ていく道や とんびたこ
34 春は春 昨日の雪も 今日は解け
35 公用に 出て行く道や 春の月
36 あばらやに 寝ていて寒し 春の月
37 暖かな 垣根のそばや あぐるたこ
38 けふもけふ たこのうなりや 夕げせん
39 うぐいすや はたきの音も つい止める
40 武蔵野や 強う出てくる 花見酒
41 梅の花 咲くる日だけに 咲いて散る

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この中でも特に有名な句といえば、皆さんもご存じの通り「知れば迷い しらねば迷わぬ 恋の道」ですね。
他にも魅力的な句がたくさんありますが、私は「願うこと あるやもしらず 蚊取虫」という句が好きです。(炎を慕って哀れに死んでゆく虫も、何かを願い生きているのかもしれない)という意味ですが、地味ながらとてつもない力強さと繊細さを感じます。
皆さんは、どの句が好きですか?

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